東京地方裁判所 昭和38年(モ)13237号 決定 1964年4月23日
申立人(被申立人) リーダー機械株式会社
被申立人(申立人) 中央労働委員会
主文
当裁判所が申立人中央労働委員会被申立人リーダー機械株式会社間の当庁昭和三八年(モ)第一二、〇五六号緊急命令申立事件について、同年九月一三日にした緊急命令のうち、「解雇から復職までの間に同人が受けるはずであつた諸給与相当額を支払わねばならない。」とある部分を「同人に対し四〇万円及び昭和三八年七月から復職するまでの間毎月末日限り二万円を支払わなければならない。」と変更する。
理由
申立人の本件取消申立理由の要旨は別紙記載のとおりである。
一、右申立理由(一)について。
本件記録によれば、当裁判所が主文に掲記した緊急命令を発したにも拘らず田中義敏の原職または原職相当の職への復帰はまだ実現していないけれども、同人は昭和三六年一月二七日申立人会社を解雇された後同年八月から株式会社共益社に機械旋盤工として勤務し同月から昭和三八年六月までの間に少くとも合計四六万一一一七円の賃金を得ていることが明らかであり、他方同人が申立人会社から解雇されることなく引続き雇傭されていた場合、昭和三六年一月から昭和三八年六月までに得べかりし賃金合計額は計算上約八八万四〇〇〇円と認められる。従つて、申立人をして、田中義敏に対し、同人が申立人会社から得べかりし右賃金から共益社において現に得た賃金を控除した残額の範囲内において四〇万円と、昭和三八年七月以降毎月末日限り得べかりし賃金月額の範囲内の二万円の割合による金員の支払をなさしめるのが相当である。
二、同申立理由(二)について。
申立人は、適法に田中義敏を解雇したものであるから同人の原職復帰を命ずる前記緊急命令は取消さるべきであると主張し、右主張の当否については当裁判所に係属している申立人を原告とし被申立人を被告とする救済命令取消事件(当庁昭和三八年(行)第五四号)において審究中であるが、さきに被申立人の発した昭和三八年五月一五日付救済命令において右解雇は不当労働行為であると判定され当裁判所においても右判定を一応相当と認めて前記緊急命令を発したのであつて、現段階においても右当裁判所の判断を飜えし、前記緊急命令中原職復帰を命じた部分を取消すべき特段の事由は認められない。
三、同申立理由(三)について。
次に、申立人は田中が現在共益社において申立人会社より遙かに優遇されているから、前記緊急命令の必要性がないと主張するもののようであるが、昭和三八年七月以降田中が共益社に雇傭され優遇されていることを認める資料はないのみならず、不当労働行為救済制度の本旨が単に個々の労働者の経済的地位のみならず労働者の団結権を保護するにあることを考えると、申立人主張の理由だけで直ちに緊急命令を発する必要がないとはいい難い。
四、結論
そうすると本件緊急命令のうち、主文掲記の部分を一、で判示したとおり変更すべく、この限度で本件申立は理由がある。
よつて主文のとおり決定する。
(裁判官 橘喬 吉田良正 三枝信義)
(別紙)
申立理由の要旨
一、訴外田中義敏は被申立人会社の解雇後埼玉県川口市青木町二丁目四番地株式会社共益社に機械旋盤工として現在も勤務し居り昭和三六年八月一一日から昭和三八年六月末日までの間に合計四六万一一一七円の給与を受けているから、右給与を受けている事実を無視して漫然と被申立人会社勤務当時の諸給与相当額全部の支払を命じた右決定は最高裁判所昭和三六年(オ)第五一九号同三七年九月一八日第三小法廷判決に反する不当の決定であるから右決定は当然取消さるべきである。
二、なお右田中義敏は被申立人の調査の結果昭和三〇年八月三日傷害致死罪で懲役六年の判決言渡確定被申立人会社に入社当時は未だ仮釈放中であつたのに同人は虚偽の履歴書を提出し被申立人を欺罔し労働契約を締結したので被申立人は同人の不信義に基き昭和三六年一月三一日解雇予告手当を提供して解雇の意思表示をしたから右同人と被申立人との労働契約は終了している。
三、又右田中義敏から被申立人に対し仮の地位を定める仮処分の申立のない本件において、しかも右田中義敏は現在勤務中の訴外右株式会社共益社において被申立人会社より遙かに優遇されているから生活に困つていないものである。
元来労働組合法第二七条第七号の命令は経済的弱者の立場にある労働者の生活を救済するために設けられた規定であるから右命令は無制限に許さるべきものではなく、本件緊急命令は不必要に労働者を救済する命令であるから取消さるべきものと信ずる。
〔参考資料〕
緊急命令申立事件
(東京地方昭和三八年(モ)第一二〇五六号 昭和三八年九月一三日 決定)
申立人 中央労働委員会
被申立人 リーダー機械株式会社
主文
被申立人は被申立人を原告とし、申立人を被告とする当庁昭和三八年(行)第五四号不当労働行為救済命令取消請求事件の判決が確定するまで、申立人が被申立人に対してなした中労委昭和三六年(不再)第三一号不当労働行為再審査申立事件の命令のうち「被申立人は、田中義敏を原職又は原職相当の職に復帰させ、解雇から復職までの間に同人がうけるはずであつた諸給与相当額を支払わねばならない。」との限度で、これに従わなければならない。
(裁判官 橘喬 吉田良正 三枝信義)